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世界的なヒット曲を持つダンスミュージック・トリオ、Swedish House Mafiaは、グループがこれまでリリースした全楽曲の原盤権と著作権を全て売却したことが発表されました。同グループの権利を買収したのは、ABBAのメンバーのビョルン・ウルヴァース (Bjorn Ulvaeus)と、投資会社EQTの創業者コニー・ジョンソン(Conni Jonsson)が設立した、スウェーデン・ストックホルムの音楽IP投資企業「Pophouse Entertainment」でした。

今回の取引では、PophouseはSwedish House Mafiaがこれまでリリースしてきた過去のヒット曲を含む楽曲の原盤権と著作権、作曲家が保有するライターズシェア(Writer’s Share)、サイドプロジェクトのAxwell Λ Ingrossoがリリースした全楽曲の原盤権と著作権も獲得しました。Pophouseが支払った買収額は公表されていません。

また、PophouseとSwedish House Mafiaは、グループのブランディングを世界展開する新会社をジョイントベンチャーで新設する契約も交しました。

Swedish House Mafiaの楽曲は、現在も世界中で億単位の再生数と動画再生数を積み上げています。最近では、The Weekndのアルバム『Dawn FM』のプロデュースに参加しました。4月15日にはデビューアルバム『Paradise Again』をリパブリック・レコードからリリース。2022年のコーチェラ・フェスティバルにもヘッドライナー出演が決まっています。

なぜ音楽IPビジネスが盛り上がるか?

アーティストの著作権や原盤権を買収する動きは、2010年代後半から活発となり、2020年にはボブ・ディランの著作権がユニバーサルミュージックによって買収されたニュースは日本でも目にした人は多いかと思います。著作権の売却は、こうしたレガシーアーティストだけに限りません。エレクトロニック・ミュージックのジャンルでも、現役で活躍するプロデューサーたちも、自らの著作権を投資会社やレコード会社に売却しています。

まず2019年に、The Chainsmokersはカタログ楽曲の著作権(ライターズ・シェア、出版権)を、イギリスのHipgnosis Songs Fundに売却しました。売却額は明らかにされていませんが、カタログ楽曲にはThe Chainsmokersのヒット曲の「Closer」や「Don’t Let Me Down」「Roses」などに加えて、Andrew Taggartが制作したLogicの「1-800-273-8255」など、アーティストへ提供した楽曲の権利も含まれます。

2020年、カルヴィン・ハリスは自身の著作権を投資会社のVine Alternative Investmentsに売却しており、その際の値段は推測1億ドルと言われています。

2021年には、デヴィッド・ゲッタがカタログ楽曲と将来の楽曲の権利をワーナーミュージックに売却しました。こちらも正確な売却額は明らかになっていませんが、約1億ドルと推測されています。上記の二組に比べてキャリアの長いデヴィッド・ゲッタが手掛けてきた楽曲は、全世界で140億回以上再生されていました。

世界的に音楽ストリーミングが主流になったことで、将来の収益額が予測できるようになったこと。著作権で収益化できるプラットフォームが今後も増えていくこと。投資家向きの金融情勢。

音楽業界の構造の変化によって、著作権ビジネスは、権利を保有し続けるよりも、運用して価値を伸ばす流れが主流になったため、多くの投資会社がアーティストから著作権を買い取っています。

また、Swedish House MafiaやThe Chainsmokers、カルヴィン・ハリス、デヴィッド・ゲッタなどは、プロデューサーやソングライター、アーティストと様々な形式で楽曲制作に関われる為、長期的にロイヤリティ収入が期待出来ると思われますが、一方で、アーティストや楽曲制作者たちへの収益分配率が今後大きく跳ね上がるような支払いの変化は(現状では)期待出来ません。

しかし、ライブビジネス(ブッキングフィー、ツアーの売上、フェスの出演料)、アーティストのブランド管理ビジネスでは、アーティスト自らが価格を設定出来るため、有利な立場にあります。

音楽IPを買収するPophouse

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Pophouseは今後、地元スウェーデン以外の音楽市場で、音楽に関する投資事業を強化する戦略も明らかにしました。

この戦略に向けた新しい組織強化も刷新。キャピトル・ミュージック・グループの前CEO兼会長のスティーブ・バーネット(Steve Barnett)が、投資部門のアドバイザリー委員会に就任したことを発表しました。

さらに、同社は今後、さらなるレガシーアーティストの権利獲得を目指すべく、米国と英国に注力すると述べます。

音楽への投資では、過去にSpotifyのカタログ部門グローバルヘッドを務めていたヨハン・ラーゲルレーヴ(Johan Lagerlöf)がPophouse投資部門の責任者を務め、さらなる音楽IPの買収を視野に入れています。

スウェーデンの会社であることから、Pophouseが同国出身の作詞作曲家やプロデューサーの著作権を狙うといったことも十分に予想されます。スウェーデン出身の作詞作曲家は最近ではK-POPアーティストのヒット曲を手掛けるなど世界的な需要があり、手掛ける楽曲はYouTubeやSpotifyなどで再生を積み上げています。

Pophouse方式のアーティストIPビジネス

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Pophouseは、音楽IPの運用に特化した、興味深いビジネスモデルを持った音楽企業です。

当初は、ABBAの博物館「ABBA The Museum」と、隣接するホテル「Pop House Hotel」を建設するために設立した音楽会社でした。

しかし、これまでにコンサート体験の制作、会場運営、ホテルやレストラン経営、ゲーム施設の建設、ポッドキャスト制作、テクノロジーなど幅広い領域に進出して、それらに音楽IPを組み込み、コンテンツ創出と施設運営を行っています。

最も最近ではスウェーデン人のDJ、Aviciiのキャリアや音楽を体験できる専用ミュージアム「Avicii Experience」を、ストックホルムにオープンさせました。

ウルヴァースが経営者の一人である同社だけに、これまでABBA関連の事業を数多く手掛けています。

最も注目されるプロジェクトは、ロンドンで2022年5月から開催が予定されているABBAのコンサート「ABBA Voyage」プロジェクトです。

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Pophouseは、専用コンサート会場「ABBAアリーナ」の建設、アーティストをアバター化させたバーチャルコンサートの演出など、プロジェクト運営に出資しています。

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Source:
Pophouse acquires Swedish House Mafia’s back catalogue – and starts approaching brands in the US and UK (Pophouse)
Abba Star Bjorn Ulvaeus, EQT Owner Are Said to Seek $1 Billion for Music Fund (Bloomberg)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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