ニルヴァーナの「イン・ユーテロ」やピクシーズの「サーファー・ローザ」、PJ ハーヴェイの「Rid of Me」など数々のオルタナ・ロックアルバムのプロデューサーとして知られるスティーブ・アルビニは、インディーズロック界で最も「モノ言うプロデューサー」と言えるほどオピニオンリーダーとしても知られています。そのアルビニが、Quartzのインタビューで現在の音楽ビジネスの在り方について語っています。
スティーブ・アルビニはプロデューサーであると同時に、ロックバンド「ビッグ・ブラック」や「シェラック」などのバンドでも活動しています。さらに前途のとおりインディーズシーンのオピニオンリーダーとして、アーティストと音楽業界の関係に対してはっきりと意見を述べてきました。最も有名なものとしては、1993年には「The Problem with Music」(音楽ビジネスの問題点)というタイトルの有名なエッセイを出版し、音楽産業にはアーティストを無視した利益構造が成り立っていることを指摘しました。
今世界の音楽ビジネスは彼が20年以上前に問題視していた収益構造や流通、プロモーションといった既存のアプローチが崩壊し始め、業界は大きな転機を迎えています。一方でミュージシャンやファンは、(規模は縮小したかもしれないが)今までにないほど音楽の配信や音楽の消費を楽しむことができるようになりました。アルビニはこの変化を音楽シーンに起こした「インターネット」の存在をポジティブに受け止めています。
俺の音楽生活の中でパンク・ロック誕生以来、唯一で最高の出来事といえば、世界中に無料で音楽をシェアできるようになったことだ。これは信じられないような進化だ。
インターネットやITによる音楽ビジネスの変化は、アーティストの収益源やクリエイティビティに悪影響を与えると公の場で発言するアーティストがここ数年の間に増えています。新しい現実に突然適合しろといわれても簡単ではありません。上記のアーティストのように反発する人たちも現れます。しかしアルビニの目から見れば、既存のビジネスモデルよりも今ははるかに良くなったと見えています。
かつて全てをコントロールしていたレコードレーベルは本質的に重要ではなくなった。バンドが世界に向けて自分たちをアピールする方法は、極めて民主的になり、制限が取り払われた。…自分の音楽で世界中からリスナーを持つことができる。しかも企業の干渉無しで。素晴らしいことなんだ。
音楽ストリーミングと音楽ビジネスのパラダイム
現在、音楽の消費形態が「所有」モデルから「アクセス」モデルへとシフトし始め、音楽ビジネスも変化しています。その流れの中心にあるのが「音楽ストリーミングサービス」です。海外ではSpotifyやPandoraなど音楽ストリーミングサービスが高い人気を誇り急成長している一方で、音楽の売上全体に変化が出始めました。
アルビニはこれらの音楽サービスがアーティストにとっての重要な収入源になることに関しては懐疑的であることを明らかにした反面、彼らのビジネスモデルにおけるアーティストへの配分は「思っているほど非常識じゃない」として理解を示しています。
そして音楽ストリーミングの価値については、
彼らのサービスは、アーティストを探す手間を割くことが苦手な、コアな音楽ファンじゃない人々にとっては非常に便利なサービスだと思う。(だけど)これらのサービスが出てきて冷静さをかいてる連中によって間違った計算が行われている。
批判することは、車が馬よりも早く走ってるって言ってのと同じだぜ。
とコメントしています。
またアルビニは、ミュージシャンや作曲家への配分に関するビジネスそのものに長年問題が存在していたことを改めて述べています。これはネットが普及した今の時代においても変わりません。アメリカで人気のネットラジオサービスPandoraは、音楽出版業界との間でライセンスの権利とロイヤリティ額分配において長年戦っています。アルビニ曰く音楽出版ビジネスは「搾取的」であると、非難しています。
一方で、既存のビジネスモデルが崩壊したことで、ライブへのシフトなどミュージシャンのエコシステムも徐々に変化していることはアルビニはポジティブに受け止めています。
音楽出版ビジネスは金になる商売だった。音楽ビジネスの中でもまっとうじゃなかった。作曲家の利益のために機能したことなんてありもしない。崩壊した既存の音楽ビジネスの中で、嬉しい事といえば音楽出版ビジネスが崩壊したことだ。
オーディエンスにとっては、この方がバンドにお金を払うならずっと直接的で純粋な方法だと思う。そして今よりはるかに効率的な音楽の消費方法だと思うよ。
結局、インターネットはバンドとオーディエンスにとってとてつもないほど良いことなんだが、ネットワークの一部でない企業や、金を搾り取ってきた人間にとっては都合が悪いことなんだ。俺にとってそんな人間は知ったこっちゃねぇけどな。
大きなレコード会社はテクノロジーやネットのせいで、売上が落ちたと主張するでしょう。しかしそれは過去や周囲との比較であって、その話を広げても将来の成功にはつながりません。スティーブ・アルビニの主張は、ネットのおかげでどんなアーティストでも、どの国のファンも音楽を届け聴くことができる新しい現実の話をしているだけです。アーティスト兼プロデューサーから見て、間違ったことは言ってはいないのではないでしょうか?
そういう意味で、音楽テクノロジーが成長し普及することで、レコード会社もアーティストもファンも、誰もがWin-Winの関係になる音楽シーンが日本にも世界にも広がって欲しいと願いながら、日本でもスティーブ・アルビニのようにデジタル音楽の時代に意見を述べてくれるオピニオンリーダーが出現することに期待したいと思います。
ソース
Steve Albini Says Online Streaming ‘Best Thing Since Punk Rock’ (4/30 Billboard)
‘The Problem With Music’ has been solved by the internet(The Quartz)