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みなさんはラジオ派ですか?一人DJ派ですか?

12月9日、音楽ストリーミングサービスのSpotifyはネットラジオ機能である「Spotify Radio」を刷新しました。Spotify Radioは好みに合わせて自動で音楽再生する従来のラジオ機能に加え、新機能として無制限のラジオ局設定、無制限の曲のスキップ(早送り)、そして強力なレコメンデーション機能が追加されました。

下の写真のようにアーティストまたは曲で「Start Artist Radio」をクリックするだけで、選んだ曲をベースに1500万曲のカタログから自動的に次々と同じスタイル・ジャンルの曲を自動再生してくれてパーソナル化したオンラインラジオ(プレイリスト)を無料で構築できる、非常にシンプルな機能です。Spotify Radioはサービス展開する12カ国全ての無料会員と有料会員どちらも利用が可能です。

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以前は全く不評だった「Spotify Radio」を今回のアップグレードから強力に支援しているのが、音楽データに基づく楽曲レコメンデーションをアプリやサイトに提供する音楽情報解析サービスの「Echo Nest (エコーネスト)」という企業です。

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Echo Nestは、デジタル音楽コンテンツにおけるアーティスト、楽曲、アルバムなどの評判、テンポ、楽器、キーやハーモニーなどの楽曲特性、ストリーム再生やダウンロード、再生回数、行動パターンなどのユーザー特性を機械的に解析する企業です。同社のプラットフォームには3000万曲に関する50億のデータが蓄積されており、これらのデータをメディアや音楽サービス企業、開発者コミュニティに提供し、このデータに基づく特別なアルゴリズムによるAPIを利用してレコメンデーションエンジン、検索エンジン、プレイリスト機能、位置情報アプリ、音楽ゲームなど200以上のアプリケーションが開発されています。彼らの顧客にはMTV, BBC、ノキア、ワーナーミュージック、EMI、MOGなどがいます。

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Spotify Radioの発表以来、どんなレコメンデーションが音楽には最適か?の議論が起こっています。具体的には「人 vs マシーン」によるレコメンデーションと音楽発掘についてです。

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米国には圧倒的なユーザー数を誇るネットラジオサービス「Pandora」 があります。登録者数1.25億人という幅広いユーザーベースを持つPandoraは、ユーザーからのフィードバック(Thumb Up/Down)と自社開発の『Music Genome Project』(ミュージック・ゲノム・プロジェクト)という人力の解析によるコンテンツレコメンデーションを採用しています。

現在Music Genome Projectには90,000組以上のアーティストの900,000曲のデータが分析され蓄積されています。同社には音楽分析家でミュージシャン25人ほどの音楽学者が在籍しており、1曲づつテンポや色調、さらにはザラツキ感まで楽曲の特性を分析しており、彼らの解析データをベースに似たスタイル・ジャンルの楽曲を自動で再生します。この機能によって、Pandoraユーザーは検索する必要もなく、聴きっぱなしすることが出来ます。

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こういう2社が同じようなサービスを提供してくると、大抵は「どちらが優れている?」「勝ち残るのはどこ?」と比較し始め、今まさに米国メディアが議論をしている時ですが、自分は全く違う考えです。それは機能面での比較ではなく、ユーザー層での比較にネットラジオの今後の可能性が見えてくるからです。

ラジオは新しい音楽の発掘や無制限な聴き流し(ストリーミング)に最適なサービスです。また大多数のライトユーザーが簡単に利用できる利点があるので、新規顧客獲得につながりやすいと考えられます。ビジネス的な話をするなら、今回のSpotify Radioはこの分野を開拓することで、新たなユーザー層の拡大または差別化で他社サービスのユーザーを乗り換えさせる戦略を狙っているでしょう。(例えば、Spotify Radioは無制限ですが、Pandoraには1日最大12スキップ、100局までの制限があります)

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しかし両サービスは、同じラジオ機能でもアプローチが異なるように見えます。Pandoraは『ラジオ』に軸をベースに音楽体験を提供し、Spotifyは『音楽コンテンツ』をベースにした音楽体験を提供し、その一部でラジオ(やその他の機能)を提供している感じがします。

PandoraはラジオをPCやモバイルから車載システムに展開することでラジオ利用者のニーズを満たします。

一方でSpotifyは豊富な音楽コンテンツをあらゆる場所と形態でアクセスできるようにすることに注力し、ネットラジオ利用者向けの専用サービスを1事業として開始しました。

Pandoraではユーザーがラジオリスナーとなり、Spotifyはユーザーが主役となって音楽をキュレートすることで、全く異なる音楽体験と価値観でコンテンツを消費します。

ラジオ好きはPandora、レコード屋で選曲好き(個人でDJ)はSpotifyという図式になると予測ができ、長期に見ると互いが個々のユーザーが喜ぶサービスを提供出来ると思います。短期的にはSpotifyがユーザーを獲得するでしょう。ですが、どちらもサービス内容やデバイス、コンテンツなど拡張性の高いサービスかと思います。今後どれだけPandoraとSpotifyがラジオの価値と市場を拡大できるかがカギになる気がします。ラジオという手軽なメディア、音楽という共感しやすいコンテンツが融合するネットラジオが拡大すれば、「ラジオ復活」となるかもしれません。

両サービスに言えるのは、ユーザーや消費者が自分の好みに合う選曲をいつでもどこでも提供するサービスだということ。決してサービス事業者が主体になることはない。音楽を世の中の人に届ける最良の方法を両社は常に追い求めて、音楽と生活をむすびつける仕組みを具現化していることは素晴らしいことだと思います。

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SpotifyとPandoraについての紹介

Spotifyは、ソーシャル機能を搭載するオンデマンド定額制のクラウド型音楽サービス。フリーミアムのビジネスモデルで、無料プラン(広告、再生時間制限付き)と2種類の有料プラン(広告・制限無し)を提供しており、ユーザーはPCやモバイル、アプリ経由で1500万曲から好きな音楽をいつでもどこでも聞き放題で堪能できます。
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現在欧米12カ国で展開しており、2011年にはアクティブユーザー数1000万人、有料会員数が250万人に到達するほど急速に人気を集めています(比較すると、モバイルSuicaユーザーが5年目の今年250万人に達したそうです)。

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また11月30日にはアプリケーションプラットフォームを発表し、サードパーティがSpotifyの楽曲カタログを利用したアプリケーションをデスクトップで無料また有料会員に提供し始めました。

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Facebookとの連携強化、アプリプラットフォーム、そしてオンラインラジオ機能。

一方のPandoraは2000年に「Music Genome Project」をサービス化するPandora Media(前Savage Beast)として設立され、タワーレコードやBorders, ベストバイなど小売店の音楽キオスク向けにレコメンデーションエンジンを提供してきたB2B企業でしたが、戦略転換し一般消費者向けのネットラジオとしてPandora Radioを2005年にローンチしました。米国のみのサービスで、広告入り+制限付きの無料プランと広告/制限無しのプレミアムプラン(年間$36)の2通りを展開しています。

どちらも日本からは利用ができないサービスですが、もし機会があれば、もしくは知人でユーザーがいれば、一度両社のサービスが体験と消費を聞いてみてください。
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ソース

Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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