ロスアンゼルス発のインディ系ヒップホップレーベル『Stones Throw Records』が、月額定額制のデジタル音楽サービス『 The Stones Throw Digital Discography』を開始しました。
1996年創設の、Aloe Blacc, マッドリブ (Madlib), メイヤー・ホウソーン (Mayer Hawthorne), Dam-Funkなどヒップホップ中心のアーティストが所属するStones Throw Recordsのデジタル配信サービスでは、今後出る新作や限定リリース、ミックスをDRM無し320kbps高音質MP3ファイルで配信、月額10ドルでメールボックスに届きます。これはファンにはたまらない素晴らしい取り組み。
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第一弾ではこちらの新作3リリースがダウンロードできます。
Homeboy Sandman「Subject: Matter EP」
M.E.D.「Classic Instruments LP」
VA「The Minimal Wave Tapes Vol.2」(2/27正式リリース)
第二弾は以下
PortisheadメンバーのGeoff Barrowが始めたヒップホップ・プロジェクト「Quakers」のアルバム。
Stones Throw RecordsのオーナーでプロデューサーのPeanut Butter WolfはNPRの取材で、新サービスは新たな試みで、レーベルは以前と変わらないやり方を続けると言っています。「ファンは俺たちが出す作品全てを熱心にフォローしてくれる。(中略)新しいやり方をメインにしようとは考えていない。これまで同様iTunesからダウンロードできるし、それも俺たちは嬉しく思う。アナログレコードを買っても構わないし、YouTubeでタダで聴いても構わない。何でもありだ。俺たちはファンにもう一つの選択肢を提供しただけだから」と戦略を説明します。
Sontes Throw Recordsの取り組みは、音楽配信プラットフォーム「Drip.fm」(@dripfm)と提携して実現しました。Drip.fmは、米エレクトロニック系レコードレーベル『Ghostly International』が自社の配信サービス用に立ち上げた、非常にシンプルな定額会員制音楽配信のシステム。これも素晴らしいシステム。
Drip.fmは、レーベルが無料で登録し利用でき、レーベルが設定した月額料金から収益が得られる仕組み。配信頻度も設定が可能。一般ユーザーは月額費をクレジットカードで支払いし、いつでも退会することが可能。Ghostly Internationalは課金が発生した場合(ユーザーが購読)に、レベニューシェア(成果報酬)で売上から受け取ります(%は明記されておらず)。現在「Drip.fm」では, Stones Throwの他にサンフランシスコのレーベル『Dirtybird』(https://drip.fm/dirtybird) も定額制配信を行っています。
Stones ThrowとGhostly Internationalは, iTunesはもちろんSpotifyやその他のデジタル音楽配信サービスにも楽曲コンテンツを提供しています。
ではなぜStones Throw Recordsは定額制デジタル配信を始めたのか?「バイラルを追求していない」、「無料でなく有料」、「個別課金でなく月額定額制」とユーザーの参加を妨げる、あらゆる要素で構成されているサービスを始めるのか?
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デジタル時代にコンテンツ配信を行い成功するためのレーベル(ブランド)在り方を下の3点から考えてみました。まだデジタル・ソーシャルに対応していないレーベル(ブランド)も、成功するためのヒントになれば、と思います。
- レーベル(ブランド)のアイデンティティ
- 豊富で価値ある音楽カタログ
- コアなファン層のコミュニティ
Stones Throw Recordsは、有名でもなくヒット曲もなくソーシャル・フレンドリーでもない、小規模のレーベル(ブランド)です。ですが、音楽は最先端(というかアバンギャルド)で、これまで聴いたことの無い音ばかりをリリースしており、作品には強い独自性や先進性、遊び心や情緒性が存在します。
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ファンは視聴や購入などを通じて作品と関係性を強め、ビートが放つ「先進性」や「情緒性」やメッセージを自分の音楽ライフのアイデンティティとして取り込みます。そして、レーベル(ブランド)とファンとのつながりが強く広くなる程、作り出す世界観がブランドカラーとなり、その価値を認識され始めます。
ファンがコンテンツと関係性を創るためには、出会いが必要です。Stones Throwは1996年の創設以来、これまでCDだけでも173枚、アナログレコードでは324枚もリリースしています。
CD, mp3はもちろん、アナログレコード(LP, EP, 7インチ,限定版、 カラーレコード、ボックスセット), 毎月3-5本のイベント、リイシュー, Podcast, ジャケットカバーと、広域な楽しみ方があり、他人とは違う自分だけの音楽ライフをさらに磨くため、購入し所有したくなる価値あるコンテンツがあります。コアな音楽ファンや、DJ/アーティスト、アナログレコード・コレクターにまでコンテンツを幅広い選択肢で常に届けて、「つながるキッカケ」を創ります。
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そして、長年支援してきたファンにとって、レーベル(ブランド)の世界観は信頼と期待へと変わり、自分の音楽世界において共感度が強まります。自分ゴトにすることで共感が強まり、積極的なコアファン層は共感をきっかけに、購入やライブ参加、積極的な情報収集、口コミや情報共有など自発的な行動を起こします。
例えば、Twitterでハッシュタグ「#StonesThrow」を検索してみると、購入したレコードやライブの写真やYouTube動画リンクなど、ファン自らが発信するツイートであることが分ると思います。コストをかけて話題を語ってもらう仕掛けを作ることなく、忠実なファンがブランドの存在を後押しする関係性ができます。
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このような要素が存在した場合、熱心なファンを持つレーベル(ブランド)が作るべきものは「購入動機」ではなく、「アクセス」と「購入導線」です。彼/彼女達はメディアがCD, MP3, アナログレコード、映像、リアルな体験であろうと、自分たちが最も好む形体で必ず購入してくれます。そのためには、アクセスできる方法とそこに導くための環境が欠かせない要素になります。これらが構築されているからこそ、デジタル配信モデルに取り組んだと推測します。
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今回Stones Throwがやろうとしていることは、熱狂的なコアファン層とのつながりを具現化した仕組みだと思います。これはheatwave_p2pさんやyomoyomoさんのブログで紹介される、ケヴィン・ケリー(Wired元編集長)が提唱する「千人の忠実なファン」の考えにほかなりません。そしてこの取り組みに必要な一定数のコミュニティ獲得をFacebookやTwitterだのソーシャルツールに依存することなく実行するところは、驚きであり納得できるポイントだと思います。
メイヤー・ホウソーン image via Flickr Karmacamilleeon
デジタルな環境で、レーベル(ブランド)カラーを最大化し収益化も実現は難しいですが、長年同じスタイルの音楽やアーティストをリリースしてファンを育ててきたレーベル(ブランド)は、もしファンが望むのであれば、可能性があると思いました。
Stones ThrowとDrip.fmの取り組みは、ブランド力とコアなファン層を抱える音楽レーベル(ブランド)が、運用コストを最低限に抑えながらファンと直接つながり収益化できる可能性を秘めた施策だと思います。ファンがアクセスできる環境を実現するため、コンテンツの流通を多様化させ、無料ではなく収益化までを考える中小規模のレーベルの取り組みは素晴らしいと思います。
忠実なファンを持っている日本のレーベルがDrip.fmを利用するのも、一つの可能性ですね。
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