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イギリス人シンガーのアデルが2015年11月にリリースした記録破りの最新アルバム「25」。発売と同時に世界の売上記録を更新してきた作品ですが、今日ようやくSpotifyやApple Musicなど定額制音楽配信サービスで解禁されました。

「25」リリースから7カ月経ち、SpotifyやApple Music、Amazon Prime、TIDAL、Google Play Musicで配信を始めたアデルと、制作を担当したインディーズレーベル「XL Recordings」(Beggars Groupのグループレーベルでレディオヘッド作品もリリース)は、発売当初から、発売と配信の時期をずらす「ウィンドウィング」戦略を行うことを明言していました。

「25」はダウンロードそしてCDとアナログレコードで販売され、米国ではリリース初週だけで338万ユニット(フィジカルとデジタル・ダウンロード合算)を売上り、インシンク(NSync)が2000年にアルバム「No Strings Attached」で記録した初週売上記録の241.6万枚を更新したほどの勢いを見せたメガヒット作品となっています。

リードシングルの「Hello」は、米国で歴史上初めて100万ダウンロードを超えたトラックとなりました。

英国でも史上最高の初週売上となる80万枚を達成し、アルバムチャートをCDとダウンロードのみで独占してきました。

アデルは7月5日から北米ツアーをミネソタからスタートする予定(全てソールドアウト)。今月15日には2月から続いたヨーロッパツアー(こちらも全てソールドアウト)を終えたばかりです。

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アデルのウィンドウィングとは

アデルは前作「21」も発売をCDなどフィジカルとダウンロードで行い、全世界で2000万以上のセールス記録を打ち立てました。一方、音楽配信には慎重な姿勢を示してきました。「21」も発売から16カ月後にようやくSpotifyで解禁しています。

アデルは昨年12月にTIMEのインタビューで次のように答えています

私はストリーミングは使わない。誰かが買わない分を穴埋めするために、自分の音楽をダウンロードするし、フィジカルも買うようにしてる。ストリーミングは少し使い捨てな感覚ね。

私もストリーミングが未来なことは分かっているけど、音楽を消費する唯一の方法じゃない。私はまだ自分の気持ちで理解できない何かに忠誠を誓うことはできないわ

アデルとXLが行ったウィンドウィング戦略は、消費者にコンテンツをまず細書に購入させる期間を設けます。しかし多くの音楽ファンからはアルバムがリリースされると同時にSpotifyやApple Musicなど音楽ストリーミングサービスでも解禁され楽しめる環境を望んでいることも確かです。

このウィンドウィング戦略がアルバム購入にどの程度影響を与えているか、直接的に測れるデータを計測することは存在せず、おそらく今後も難しいといえるでしょう。

昨年の米国の音楽市場では、アルバムの消費される速度と、購入される枚数は、対象的な結果となっています。

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アルバムが消費された数値を詳しく見ると、2014年の4億7690万ユニットから15.2%増加して、5億4940万ユニットでした。この「ユニット」という単位は、全アルバムの売上と、TEA(Track Equivalent Albums、10トラックダウンロードを1アルバムとしてカウント)、SEA(Streaming Equivalent Albums、1500ストリーミング再生を1アルバムとしてカウント)した数値の合算です。

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しかし、一方ではアルバムの購入ユニットは2014年よりも6.1%下回っています。唯一プラス成長したのは、最もフィジカルな形式であるアナログレコードということは、いかに人がアルバム購入から遠ざかっているかを示しています。

何がアルバム消費を成長させているかといえば、それは間違いなく音楽ストリーミングです。なぜならそこにリスナーが集まっているからで、その事実に世界の音楽業界は気付いているからです。

ではアデルの「25」のように、ストリーミング配信を当面見送り、フィジカルやダウンロード販売だけに注力することが本当にリスナーのメリットになっているのでしょうか?その答えにたどり着くには、もう少し時間がかかりそうです。ですが、音楽ビジネスにとってもストリーミングは新しい考え方であることに間違いありません。その中で世界では、Spotifyやアップルなどの音楽プラットフォーマーとどう共存しリスナーと接点を作れるかを考える上で、いくつかの実験的な戦略を打ちたて素早く実践し始めています。

この1-2年で急激に増えたのは、単独のサービスのみでコンテンツを解禁する「独占配信」戦略です。ドレイクやChance The RapperはApple Musicのみでアルバムをストリーミング配信しましたし、ビヨンセやカニエ・ウェストは最新作をジェイ・Zがオーナーを務めるTIDALのみで配信しました。

この戦略もこれまでのフィジカル中心の流通構造とも、ウィンドウィング戦略とも違うコンテンツ配信の手法です。

重要なのは、ファンベースがどこになるかを見極めることで、それがフィジカル市場かストリーミングなのかで打ち出す戦略も全く異なってくる時代が音楽産業にやってきました。その最たる例がアデルとXLで、彼らのターゲットはフィジカルやダウンロードを購入してくれる層。いわゆる「音楽の所有」に満足する人たちです。であることを考えれば、時期をずらしてからストリーミングで音源を解禁する戦略は理にかなっています。世界的に音楽の消費方法がクラウドに「アクセスする」モデルに移行している最中だけに、まだまだ今後も音楽ストリーミングの配信戦略における実験は続きそうです。

ソース
Adele’s 25 to be available on streaming sites (BBC News)
Adele Talks Decision To Reject Streaming Her New Album (TIME)
アデル

image by Franklin Heijnen via Flickr


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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