世界的なコロナウイルスの感染拡大で、コンサートやツアー、フェスが中断してしまった、ライブビジネス業界。世界各地でライブを企画する大手企業も大きな打撃を残しています。

ライブプロモーション世界最大手のライブ・ネイションが1-3月期の業績を発表しました。コロナウイルスによって、ライブ・ネイション運営のライブやフェスは8000本以上が影響を受け、その内の80%の6500本は延期1500本が開催中止となりました。

チケットを取り扱う傘下のチケットマスターでは50000本以上のイベントに影響が出ています。

2月末の時点で前年比10%増の3800万枚以上のチケットが購入されていたいたことからも、失った収入の大きさを示しています。

LiveNation_Q1_2020_metrics

コロナの感染拡大が始まる前には、2020年は過去最高益の一年になることが予測されていたライブ・ネイションでしたが、3月中旬には早々に全てのイベントとチケット販売を停止しました。

ライブ・ネイションは、いつからライブやチケット販売を再開するか、明確な時期を明らかにしませんでした。

同社CEOのマイケル・ラピーノは、イベント再開の時期と、再開する際のイベント運営について問われ、次のように答えました。

私たちの最大の強みはグローバル規模のダイバーシティ(多様性)です。様々な規模でイベントを運営してきました。昨年だけでクラブやシアター規模のイベントを40カ国で合計15000本行いました。ライブ・ネイションでは今後6カ月で、小規模なイベントを、時間をかけて始めます。基本に忠実な内容で、地域でのテスト運用に注力します。アーカンソー州(全米で最初に”ソーシャルディスタンシング”型のライブ再開を決定した)になるか、どこになっても、安全と保証が確保できて、行政からのお墨付きが得れれば、無観客ライブの配信や、動員数を制限したイベントを試験運用します

今秋には、シアター規模で多くの試験運用とイベントが開催されると見込んでいます。アリーナ規模のイベントも幾つか開催するかもしれません。そうなった時、ライブ・ネイションは、2021年Q3かQ4には事業が完全に回復することを目指します

参考までに、下のチャートは、チケット販売大手のぴあが、日本政府に対して提出した、ライブ業界の損失に関するデータです。官邸でのヒヤリングには、ライブ・エンタテインメント業界から、ぴあの矢内廣社長、コンサートプロモーターズ協会会長の中西健夫さん、下北沢ライブハウスGarageGarage代表の渡辺新二さんも参加されています。議事録が読めるので、政府への提案内容はそちらで読めます。

参考リンク ■令和2年3月24日 新型コロナウイルス感染症の実体経済への影響に関する集中ヒアリング (首相官邸ホームページ)

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コンサート事業が3月以降に一変

1-3月は1億7270万ドル(約185億円)の損失で、売上も21%減少して13億6570万ドル(約1470億円)となりました。コンサート運営事業の売上は25%減の9億9340万ドル(約1065億円)。チケット事業は16%減の2億8430万ドル(約305億円)。スポンサーシップ・広告事業は20%増で9030万ドル(約97億円)でした。

同社は来期の業績予想を見送っています。

ライブ・ネイションは、現金などの残高を32.7億ドル (約3530億円)確保しており、仮にイベントが年末まで出来なくても事業は継続できると強調しています。

2020年残りの事業運用コストのバーンレートは、毎月1億5000万ドル (約160億円)になると予測しています。

またライブ・ネイションは、12億ドル(約1280億円)を借り入れる資金調達を進めていることも、明らかにしました。2027年満期の優先担保付手形を額面で販売します。借入金を加えて、流動資金となる30億ドル(約3200億円)の確保を目指します。

Live_Nation_Q1_2020

 

大規模なコスト削減計画

一方で、急激なコスト削減施策も始まっています。同社では、ラピーノCEOは給与を放棄し、経営陣も給与を最大50%カットするなど、コスト削減に務めています。

ライブ・ネイションでは、2020年内に6億ドル (約643億円)のコスト削減を行う計画を発表しました。

一時解雇(Furlough、基本給料はゼロ、福利厚生と職場復帰は担保される)も社内では始まっています。ライブ・ネイションでは、全従業員(約10500人)の20%におよぶ2100人を一時解雇。チケットマスターでは、全従業員(約6500人)の25%の1625人をすでに一時解雇しました。

またコスト削減として、資本支出の削減、企業買収案件の見直し、ライブやチケットにおける前払いの延期を行います。さらに、請負業者の契約数を削減したり、出張やマーケティング、機材の保守などの出費も制限しています。

レイオフ、一時解雇は、世界のライブビジネス大手プロモーターや、エージェンシーでも始まっています。CAA (Creative Artists Agency)、APA、UTA (United Talent Agency)、WME(William Morris Endeavor)、Paradigm、ICM、Feld Entertainment、Cirque du Soleilなどが、従業員の解雇、給与の引き下げなどのコスト削減を行いました。

従業員の雇用が保証できない実態が浮き彫りとなり、社会保障や経済援助策の提供は、ライブビジネス業界には今後も重要課題として対応が求められます。

今後の見通し

ライブビジネス業界内で、世界ツアーからフェス、コンサートまで、多種多様なイベントを手掛けるライブ・ネイションは、今後も大規模な損失が見込まれます。しかし、すでにライブ再開を視野に入れた動きがすでに始まっています。

その中でまず、ライブ・ネイションがプライオリティにおく優先項目は、従業員、ファン、アーティストの健康と安全の確保です。

すでに医療専門家および公共衛生機関と協力して、安心して楽しめるライブ会場運営の対策を作り始めています。さらに今後は、動員数を減らしたイベント運営、会場内の売店でのキャッシュレス・システムの増加、オンラインチケット・テクノロジーのクリエイティブな利用促進を目指します。

ライブ・ネイションが約8000人以上のファンを対象に行ったライブ再開に関する調査では、85%の回答者が、ライブ会場の衛生管理と消毒作業、豊富な手指消毒器の設置を求めていることが分かりました。

同社の次の優先事項は、ライブ再開の準備です。ライブ・ネイションは米国連邦政府関係機関や州政府、各国の行政機関と協力して、各市場に最適化された、再開プランの構築を始めています。

ライブ・ネイションが今後の希望として注視するのは、チケット購入者の払い戻し率です。すでに販売したチケットの購入者の90%以上が払い戻しをせず、開催延期日に向けてチケットを保有していることも明らかにしました。

払い戻し希望者が10%未満というデータは、ライブ再開に向けたポジティブな兆候ですが、高額なフェスのチケット購入者や、K-POPなど入手困難なイベントの場合は払い戻しを望まない人も多いと予想されるため、楽観視は厳しいはずです。

また、チケットマスターの払い戻しポリシーにもファンの不満が爆発しました。払い戻しの対象が、延期発表を行ったライブのみに適応されることにファンが激怒し、SNSでライブ・ネイションとチケットマスターに対する足元を見た対応への不満の声が投稿され始めました。その後、ライブ・ネイションはポリシーを変更。新たなポリシーでは、ライブ開催の延期発表から60日経っても新たな日程が決定しなければ、チケットを払い戻しできる内容に変わりました。

これらの数値を踏まえて、ラピーノCEOは2021年には、ライブ運営が元通りに戻るとも云います。

私たちのライブの80%が延期で、中止ではないこと、ほぼ全てのファンはチケットを確保し続けていることを考慮すれば、私たちは2021年には、ライブの本数とファン動員数が近年と同じ水準まで回復すると予想します(マイケル・ラピーノCEO)

今後、欧米やアジアを中心に、各地で小規模なライブやイベント開催が再開します。韓国やドイツでは、プロサッカーの試合が、無観客環境で再開しました。アメリカでは、NFLが2020年シーズンのスケジュールを発表。チケット販売も開始しました。

しかし、イベント再開は政府の定める方針と基準に基づき運営することが、当面は義務付けられることが予想されます。ヨーロッパ各国では、数千人規模のイベントの再開は9月、10月まで当面禁止です。

大型フェスや、スタジアムやアリーナ級の会場でのライブを楽しみにするファンは、2021年まで待たなくてはいけない可能性が高まっています。

このような状況の中でも、アーティストに対するファンの熱量は、世界各地でさらに増加するでしょう。グローバルアーティストだけでなく、日本を含むローカルアーティストのライブを体験したいファンからの声は強まるはずです。無観客ライブの検討が始まった欧米では、車で参加する「ドライブイン」シアターでのライブや、屋外ライブなど、ソーシャルディスタンシング対策を中心に、ライブの形式も進化し始めています。

 

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source:
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Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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