新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大で、様々な産業への影響が危惧される中、音楽ストリーミングを収入源の主軸とする大手レコード会社は、少なくとも3月のロックダウン(都市封鎖)や外出制限では、大きなダメージを受けていなかったことが、分かってきました。
先日発表された、ユニバーサルミュージック・グループの2020年度Q1(1〜3月期)の業績では、売上高は前年同期比12.7%増で17億6900万ユーロ(約2076億円)。音楽事業の売上高(録音原盤売上)は、13.15%増で14億3200万ユーロ(約1680億円)。3月のコロナ危機を経ても、好調な伸びを達成しました。
ユニバーサルミュージックの主軸収益源が、音楽サブスクリプション/ストリーミングに転換できていたことが、コロナ禍での売上増加の要因と云えます。
ストリーミングの売上高は、16.5%増の9億800万ユーロ(約1066億円)。ストリーミングだけで1日11〜12億円の売上に貢献するほどの金額です。
メジャー大手3社は現在、売上の60%を音楽サブスクリプション・ストリーミングから得ています。
ユニバーサルミュージックの収益構造をシェア別に見ると、ストリーミングからの売上は音楽事業売上の63%を占め、同社全体の売上でも51%を占めるまで売上成長が続いています。
ユニバーサルミュージックはポスト・マローンやビリー・アイリッシュ、アリアナ・グランデ、ショーン・メンデスと、音楽サブスリプションでヒットできるアーティストと契約し、毎年グローバルヒットをリリースするための投資と戦略を着実に続けてきたことが、強固な収益性へ繋がっているといえます。
コロナ禍でエンタメ・サブスクリプションの需要拡大が期待される今後は、アーティストの新作リリースに加えて、豊富な旧譜、カタログ音源からの収入の伸びにも期待が高まるはずです。
売上低下が予想されるのは、YouTubeやPandoraなど無料の広告型音楽ストリーミングからの売上です。広告市場の低迷が長期化する場合、音楽サブスクリプションの市場拡大により多くの投資を注力すると予想されます。
ストリーミングと比較して、コロナ禍で課題が見えてきたのは、フィジカル音楽の売上です。CDやアナログレコードは、ストリーミングよりも先に売上が低迷するとの見通しです。
CD含むフィジカル音楽売上は1.4%減の1億9600万ユーロ(約230億円)でした。音楽ダウンロード売上は26.1%と大幅に減少しました。
アーティストのツアーが中止となり、当初得るはずだったグッズ販売や、CDの小売販売の収入は激減。今後もダメージを受けると予想されます。
特に日本のように、ツアーとCD販売がセットの市場は、様々な領域で成長に歯止めがかかると思います。CDの高い利益性は見逃せませんが、不確実性が高い現状を注視する必要があります。
ユニバーサルミュージックの中では、CDの損失を好調なストリーミングで補填しながら、ストリーミング市場への投資を続けて将来に備えるというシナリオが考えられそうです。
そのほかには、D2Cモデルでのグッズ販売への移行や、人気アーティストのライセンスビジネスの成長に期待が高まります。
Q1のライセンスビジネスの売上は7.4%増の1億9100万ユーロ(約224億円)。ライセンスからの収入はデジタルダウンロードを既に大きく越えています。そして、CDビジネスをも越える勢いで伸びているだけに、今後に期待が高まります。
ユニバーサルミュージックでQ1の売上に貢献したアーティストは、日本のKing & Prince、ジャスティン・ビーバー、エミネム、The Weekndの新作。そして、ビリー・アイリッシュとポスト・マローンが去年に引き続き好調です。
COVID-19時代の見通しが立てられない音楽業界
好調だったのは、音楽事業だけでなく、音楽出版も売上高を伸ばしました。ユニバーサルミュージック・パブリッシング・グループの売上高は17.7%増の2億7100万ユーロ(約320億円)。売上に貢献したのはサブスクリプション/ストリーミングからの収入増加でした。
グッズ販売含むその他の事業は、4.9%減の7000万ユーロ。CD売上と同様、新型コロナの影響で、ツアーグッズの収入が落ち込み、臨時休業になった小売店の影響を受けたことが出ています。
結果的に見ると、ユニバーサルミュージックは新型コロナの第一波では、大きな損失を被りませんでした。親会社のVivendiは、グループ全体の収益モデルではCOVID-19の影響は少なかったと述べています。
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Vivendiはまた、中国テンセントが率いる投資グループによる、ユニバーサルミュージックの株式取得も説明しました。テンセント率いるコンソーシアムには、テンセント・ミュージックも含まれ、中国の音楽ストリーミング最大手が、レコード会社最大手の株式を保有する関係になります。Vivendiは、テンセントとの資本関係によって、アジア市場での事業拡大に繋がることに期待すると述べています。
ユニバーサルミュージックとテンセントとの取引は、2019年12月31日に発表されました。株式10%を300億ユーロ(約3兆6600億円)で売却した手続きは、3月31日に承認されました。
ユニバーサルミュージックはまた、2023年の新規株式公開(IPO)の準備に入ったことも明らかにしました。音楽業界では、ワーナーミュージック・グループがナスダック上場を計画しています。
これだけを見ると、ユニバーサルミュージックのようなメジャーレコード会社は、コロナ以降も順調に成長するのではと、思う方も多いかと思います。
例えば、過去1-2年間の音楽サブスクリプションからの売上実績を比較して見てみると、今後の伸びにも期待したくなります。恐らく年内または来年初めには、音楽サブスクリプションからの売上は四半期だけで10億ユーロを超える可能性もあります。
しかし、この成長率はもっと早く伸びないのかとも感じてしまいます。企業規模に左右されますが、着実にサブスクリプションで成長するには、それ以外のコスト削減や戦略転換も必要になるかもしれません。
新型コロナから今後の音楽業界の見通しを予想するのは、時期尚早です。
海外の音楽業界では、音楽消費に関するデータの収集と分析が始まっています。
例えばSpotifyでは、米国の音楽消費に置いて、3月のロックダウン開始のタイミングで、ヒット曲の再生数が減少する傾向が起きています。その時期にはThe Weekndやデュア・リパ、チャイルディッシュ・ガンビーノの新作リリースが続いたにも関わらずでした。
また、通勤や運動時の再生時間が減った代わりに、自宅での音楽再生や、ゲーム機やTVでの再生が急増したと、Spotifyも報告しています。
自宅時間を過ごすためのインフラとして、サブスクリプションとストリーミングの需要拡大に期待が高まります。最も早く音楽消費の変化による恩恵を受けるのは、ストリーミングのエコシステムを構築するしてきた音楽企業です。対策を早めに講じることも可能になるでしょう。
コロナ禍では、Travis Scottと「Fortnite」のコラボレーションライブの成功によって、ゲームやライブ配信のビジネスモデルにも注目が集まっています。
さらに今後はポッドキャスト、バーチャルグッズ、アバターをマネタイズするテクノロジーへの投資も加速すると考えられます。
加えて、TikTokやInstagram、Trillerなどの無料アプリが生み出すオーディエンスを、短期に音楽ストリーミングへ誘導させるアクティベーションが成功していることを受けて、世界各国のレコード会社には、従来とは全く違うプロモーションが求められるように、活動形態も変わっても、もはや不思議ではありません。
一方で、収益性の低いYouTubeなど無料音楽ストリーミングの戦略を見直すレコード会社が増えるかもしれません。また、グッズ販売とCD販売の低迷が予想されるため、ライブやツアー、フェスに依存しない、ビジネスモデルを推進する動きが必要になってくるはずです。
事態が好転したり、以前と同じ状況へ回復するのを待つよりも、コロナ時代の音楽世界で、新たな収益源を多様化させて早く実現することが、音楽業界のテーマになっていくと感じます。
source:
VivendiVivendi
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