ドイツでは、2020年の音楽ストリーミング再生数が1390億再生以上を達成しました。この数字は、新型コロナウィルスの感染拡大の影響下でも、ドイツでは引き続き、オンライン音楽消費の需要が拡大したトレンドを示しています。

年間1390億再生という数字は、ドイツで音楽ストリーミングが定着してきた市場の変化を引き続き示す数字です。2019年の1070億再生、2018年の795億再生と比較しても、わずか2年間で約75%の急成長を遂げたこととなります。

下は、過去4年間のドイツでのストリーミング再生数がいかに増加したかを示すチャートです。

via BVMI

今回、発表された最新の業界レポートは、ドイツの音楽業界団体BVMIと、GfK Entertainmentが発表したデータで、SpotifyやApple Musicなどサブスクリプションと、YouTubeなど広告型無料ストリーミングのデータ統計をまとめています。

この数値はストリーミング再生数に関するレポートでした。しばらくすれば、2020年の音楽売上が発表されるので、その数値からドイツの推移をより詳しく見ることができます。

今に至るまで最近のドイツを振り返ると、音楽市場は近年、消費者が音楽ストリーミングを受け入れ始めたことによって、プラス成長が始まっており、売上が増加していました。

新型コロナウィルスの感染拡大後も、2020年上半期音楽市場の売上は、前年同期比で4.8%増加。売上高は7億8370万ユーロ(約983億円)で、音楽ストリーミングが市場売上でシェア65.7%を占めるまで成長してきました。

参考までに、日本のレコード協会が発表した2019年度の音楽配信売上は706億円でした。

ドイツと日本とでは集計方法が異なるので、単純な比較は難しいですが、個別のフォーマットで比較すると、各国の業界の思惑が見えてきます。

2019年音楽配信売上は706億円で6年連続プラス成長、2011年以来の700億円超え

下は、ドイツの2020年上半期の売上高をシェア別にしたチャート。ドイツではすでにデジタル音楽の売上が74%とフィジカル音楽(25.8%)を大幅に上回っています。

via BVMI

2020年上半期だけで、音楽ストリーミングの売上高は20.7%も伸びました。外出制限やイベント・フェス中止など、音楽消費が大きく変わる中、音楽消費の需要がデジタルに集中したことが見えてきます。

クリスマス・イブと大晦日が音楽消費のピーク

BVMIとGfKのレポートでは、ドイツの音楽ストリーミングは、2020年下半期でさらに加速したことが強調されています。

ドイツで2020年、最も再生数が多かった日は、クリスマス・イブと大晦日だったことが分かり、クリスマス・イブ一日では6億500万再生、大晦日では5億3700万再生もの音楽再生が記録されるという、ドイツで過去最高の再生数が達成しました。

2020年全体で見ると、24時間以内に最も再生された曲は、マライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」(All I Want for Christmas Is You)。クリスマス・イブ1日だけで450万再生以上が再生され、2019年に樹立した320万再生の最高記録を再び更新しました。

この数字からは、クリスマス商戦でこれまで購入されていたCDを買わなくなった人が、ストリーミング再生に移行してきたことが推測され、日常生活や季節行事で音楽を消費する行動様式が、オンラインに比重が置かれるように変わってきたと考えられます。

わずか4-5年前まで、ドイツは日本に次いでCD購入が多い音楽国として、世界的に知られていました。ですが、現在ではドイツは音楽ストリーミング大国に向かっていると言っても過言ではありません。

一方、CDとダウンロードは売上減少が続いています。ダウンロードの売上規模にかけては、アナログレコードよりも下回ることが予想されます。

音楽ストリーミング大国に向けて歩むドイツ

ドイツは、世界的に新型コロナウィルス感染拡大が本格化する中、いち早く音楽や文化に対する支援を政府が行ったことで、注目を集めました。

論説:パンデミック時代のドイツの文化政策 (美術手帖)

多くの音楽業界やアーティストが、ライブやフェスからの収入源が途絶える下、ストリーミングからの原盤収益や著作権収益は、コロナ時代のビジネスモデルとして広がっていきます。

特に、インディペンデント・アーティストや、インディーズレーベルなど、大手レーベルなど仲介者の制約や、不都合な契約条件に縛られない環境下にある人たちにとって、自らの経済活動を持続させ、収益増加を達成するためには、ストリーミングの存在が欠かせません。

これは、CDか、ストリーミングか、の議論ではありません。音楽の価値を高め、エコシステムが成長するために音楽業界は何ができるのか、変われるのか、の成長戦略の議論なのです。

音楽市場を成長させるには、ドイツの音楽業界はストリーミングを受け入れる方向転換を決めました。すでに消費者が選ばれていたのはストリーミングだったことも幸いしました。

新型コロナウィルスの影響が経済や社会を直撃したドイツにおいて、この消費の変化が一過性ではなく、過去数年続いてきたことは、音楽ストリーミングへ注力しようとする音楽業界の将来的なビジョンをさらに加速させるはずです。

コロナ禍で厳しい状況に迫られる多くのレコード会社や音楽業界の関係者は、好調なストリーミングと消費者のニーズに対して、どう向き合うべきかを見直すことを強いられています。 日本の音楽業界だけでなく、ドイツでも同じでしょう。とはいえ、戦略無しに音楽ストリーミングで今後の売上と成長を期待できるものではなく、持続的な成長をいかに実現するかの課題が浮上してきました。欧米では、こうした課題の解決策の一つとして、分配される著作権使用料を引き上げようとする音楽業界のロビー活動が各国議会に対してここ数年続いており、ストリーミングの成長に伴い、旧来の音楽業界の収益構造を大きく変えようという声が年々高まっていることも、2021年に注視すべき点です。

Source:

139 MILLIARDEN MUSIK-STREAMS IN 2020 – NEUE BESTMARKEN AN HEILIGABEND UND SILVESTER (BVMI)

BVMI-HALBJAHRESBILANZ (BVMI)

Photo by Mika Baumeister on Unsplash


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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